ブルガリアからの留学生、マリアです。
京都で大学生活を送りながら、私は部活にも入部しました。選んだ部活、それは弓道部です。
 
入部する前、私は弓道についてほとんど知らなかったのですが、その袴姿がとっても美しく、そして特別な雰囲気を感じ、入部を決めました。
見てください、この伝統的な衣裳!



日本における弓道は、洋式の弓道とはかなり違います。

初めて弓道場に足を踏み入れたとき、みんながあまりにも集中していて、その雰囲気に驚きました。でも、練習が終わった途端、メンバー全員がとても親切に話しかけてきて、「よし、入部しよう」と決意したのです。
さっそく私も袴を着て、弓と矢を持ち、的を狙ってみました。的の真ん中を、まっすぐ当たるように集中していきます。
道場の一員になれたことは、本当に光栄で夢のようでした。

弓道の稽古は、一回あたり3〜4時間くらいです。
最初に、道場全体の掃除を行います。
そうして礼の儀式(!)が行われ、部員全員で武訓の朗読をし、稽古が始まります。
最初は上級者による写礼(礼射)が行われ、そのあと、私などの新人を含めた全員が、的を狙うことができます。
弓を持って練習している間は、上着を脱がなければならないというのが大きなルールでした。
大変なのは冬の間です。道場は日があたらないため、特に日が落ちてからはとても寒いのです。

正直言って、8ヶ月近くの練習期間(授業の関係で週に1回しか行けなかった)で、20m先にある的にに、近づくことすらできませんでした……。
しかし、この8ヶ月間、このような時間を過ごしました。
 ・ 先輩が的に当たった時、あーたーりー!と叫ぶ。
 ・ センパイが射った後、的から矢を拾う。
 ・ 的に向かって練習する前に、私たち新入部員は巻藁で練習をする。
  (これを、射法八節と呼ぶ)

また、一つしてしまった失敗としては、大会にお菓子を持って行ってしまったこと!
初めて参加した奈良の大学弓道大会では、昼休みに他のメンバーと分け合おうと思い、クッキーのパッケージを持参しました。そのクッキーを見た先輩たちはショックを受けたようで、「誰かに見られる前にカバンに戻すように」と言われてしまいました。
そして何より学んだのは、 弓道の練習の主目的は「的を射る」ことではないということです。

また、部活全般に関しても、驚くことが多く、当時はなかなか理解することができませんでした。
例えば、なぜ授業よりも部活に行くことの方が大切だと、先輩たちが思っているのか。
また、普段の練習以上に、いわゆるコンパ(部活のO.B.やO.G.との交流会)を全力で開催しているのか、などです。
 
今にして理解するのは、部活、特に伝統武道部に通うことは、大学を卒業してからの社会生活の準備として考えられると思います。部活に力を入れることは就活の面接で重要なポイントになりますし、コンパを企画して参加することは、会社員の義務の一つである取引先や上司との飲み会に似ているのかなと思います。
部活で培ったそれらの忍耐力は、社会に出てからも必要とされるのかもしれません。
 
  
弓道部での8ヶ月間を通して、私は、最初に想像していたようなクールな日本版ムーランになることはできませんでしたが、弓道部での日々の中で、忘れられないエピソードがあります。
それは、 12月のある夜のことでした。
道場での稽古中、手足が凍りつくほど寒くて、涙が止まらず、泣きながら稽古をしていました。
稽古中はアウターを着てはいけません。
 

ある先輩は、もう射ることを終えていたのでコートを着ていました。
しかし、泣きながら稽古をしている私を見て、先輩もコートを脱ぎ、そして私の稽古の様子を見続けたのです。
稽古中の私にコートを着せるわけにはいきません。ただ先輩もコートを脱ぐことで、私の苦しみを分かち合おうとしたのです。
 
その時に温かくなったとは言えませんが、この瞬間が、私にとって日本文化との大きな出会いの一つであったことは間違いありません。

今、弓道部で過ごした時間を思い出すと、日本の文化や社会について多くのことを学ぶことができる素晴らしい機会だったと思い、本当に感謝しています。

記事翻訳:そらみ

datesorami

脚本家・舞台演出家。劇団ガレキの太鼓主催・青年団所属。 慶應義塾大学在学中より演劇活動を始め、2015年映画「私たちのハァハァ」で映画脚本デビュー。 以降、テレビドラマの脚本を中心に活動をしている。2020年の作品は「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記(テレビ東京)」「来世ではちゃんとします(テレビ東京)」など。 近年では、演劇を使ったWSにも力を入れており、WSを通して日本各地の人々と記憶を題材とした作品作りにも力を入れている。 WEBコラムニストとしては、AMにて連載を持ち、市井の人々のインタビューを重ねている。 私生活では家を持たず各国で移動型生活をしており、そのグローバルな生活とコラムニストとしての実績を生かして本サイト運営に参加。主に編集・アドバイザー・賑やかしとして関わる。